10月16日の夕方、高杜神社の杉並木の入口にある門灯籠に灯が入り「社」「神」「杜」「高」の4文字が浮かび上がりました。
午後7時半に久保、水中、堀之内、新堀、千本松の灯籠揃えの行列が集結し、氏子総代と役員が石段の下で挨拶します。
午後2時から社務所で行われた抽選でもっとも若い順番を引いた地区の総代が口上を述べ、手打ちをします。
挨拶が終わると、抽選順に各区の花灯籠、灯籠、神楽などの行列が、笛、太鼓、鉦のお囃子に乗って石段を登り、門灯籠と鳥居をくぐって本殿に続く杉並木を登って行きます。
境内の特設舞台で行われる堀之内、水中、久保、赤和、荒井原、紫の獅子舞がすべて終わると、行列は入場した順番で杉並木を下って帰路につき、門灯籠の下で別れの挨拶が交わされます。
挨拶が済むと、夜空に輝く秋の星座を仰ぎながら、各区の行列は帰路を急ぎます。
お囃子の音が聞こえなくなるころ一夜限りの門灯籠の灯が消え、辺りは闇に包まれます。
10月16日の午前5時過ぎ、久保区民がぞくぞくと鳥居の前に集まり、20分ほどで2本の幟竿を立てます。
幟竿が立てられると、大幟を掲揚しながら、石段の上で門灯籠の組み立てが始まります。
高所作業のため数名が手を出すだけで、残りの区民は寒さに震えながら遠くで見守っています。
昔は若衆の組織である『宮陽団』で幟立てや神楽の奉納をしており、門灯籠も『宮陽団』だけで立てていました。
この門灯籠がいつごろ製作されたのか定かでありませんが、大正8年生まれの爺ちゃんが『宮陽団』へ入ったときにはすでに立てられていたことから、100年以上は経過していると推定されます。
鳥居の前で地面に埋めてある基礎石の穴に、左右の親柱を挿し込んで立てます。
栗材の親柱の中間には腕木(うでぎ)と雲肘木(くもひじき)が組み付けてあり、先端にも腕木が嵌めてあります。
冠木(かぶき)を持ち上げ、両端の”長ほぞ”を親柱の中程にある”ほぞ穴”に差し込み、柱を両側から掛矢でたたいて”長ほぞ”を貫通させ、”込み栓”を差して抜けを防ぎます。
この時点では、まだぐらぐらしています。
下側の出桁(だしけた)を下の腕木の前後に組み付けます。
この出桁は、障子戸を立てる敷居を兼ねています。
前後の出桁を繋ぐ床梁を組み付けます。
T字型に組んである中央の床梁は、下から持ち上げて”長ほぞ”を冠木の”ほぞ穴”に打ち込み、込み栓で固定します。
障子戸の鴨居になる軒桁を、上の腕木の前後に組み付けます。
側面の障子戸の敷居と鴨居になる上下の桁を、前後の出桁と軒桁に組み付けます。
棟木を持ち上げ、”ほぞ穴”を親柱の先端にある”ほぞ”に通して載せます。
ここで門柱を垂直にし、屋直しをして捻れを直しながら、基礎石と親柱の隙間に楔を打ち込んで固定します。
木材は経年変化するので組み上げた門灯籠はかなりゆがむため、しっかり屋直しをすることで、建具の取り付けを容易にします。
鳥居側に控柱(ひかえばしら)を立て、貫を”ほぞ”で接続し、込み栓で固定します。
近年は”ほぞ”が壊れているため縄で縛って抜けないようにし、形だけの控柱になっています。
棟木の上に笠木を載せ、上から楔を差し込みます。
笠木を少し持ち上げ、棟木との隙間に前後各3枚の戸板を差し込みます。
戸板の側面にある”ほぞ”を隣の戸板の”ほぞ穴”に差し込んで一体化し、針金で出桁に固定して落下を防ぎます。
照明用の電球を2箇所に吊り下げ、配線コードを外に引き出します。
床に障子戸を嵌め、前は「高」「杜」「神」「社」、後ろは「護」「国」「敬」「神」と書かれた障子戸を、鴨居と敷居の溝に横から差し込みます。
右測に「平成○○年今月今夜」、左測に「久保区」と書かれた倹鈍(けんどん)式障子戸を立てます。
この障子戸も立て付けが悪くなっているので、針金で鴨居に止めておきます。
『宮陽団』が組み立てていた時代は、左側の障子戸に「宮陽団」と書かれていました。
勝山の頂きから日が出るころ、ようやく組立が完了です。
10月17日の夕方、鳥居の前に久保区民が集まり、2本の大幟を降ろしてから幟竿を倒し、幟竿を格納庫に運びます。
次に、組み立てた時と逆順に門灯籠を解体します。
親柱、控柱、棟木、笠木などは幟竿の格納庫へ運び、屋根の戸板や障子戸などは公会堂の倉庫に保管します。
勤め人が多くなって17日の夕方には老人と婦人しか集まらなくなり、力の必要な幟竿倒しや高所作業を伴う門灯籠の解体作業が危険で難しくなってきたことから、幟返しは翌18日の早朝に行われるようになりました。
上に戻る危険な作業をなくして欲しいという区民の要望が高まり、平成20年10月に門灯籠を鳥居の後方に常設しました。
前方に建つ両部鳥居と同様、親柱の前後に控え柱を立て、貫を通して支えています。
親柱は7寸角、控柱には5寸角の欅材を用い、屋根は銅板葺きです。
平成21年以降の10月16日朝の作業は、障子戸を立てるだけになります。
障子は、区内にお住まいの書家・勝山耕煙さんに揮毫していただいた紙を裏打ちしてからアクリル板に貼り付けてあります。
高山村の景観賞に選定された杉並木に調和した、立派な門灯籠です。
上に戻るりょうぶとりい【両部鳥居】:
柱の前後に控柱(ひかえばしら)を設け、親柱と控柱との間に貫(ぬき)をつけた鳥居。神仏混淆の神社に多い。 例えば敦賀(つるが)の気比(けひ)神宮の鳥居。権現鳥居。四脚鳥居。稚児柱鳥居。枠指(わくさし)鳥居。
広辞苑
平成20年10月16日の秋の例大祭には、今まで通り一夜だけの灯りを点けて各区の灯籠揃えの行列を迎えました。
お祭りを土曜日の夜にして欲しいという要望が多く、平成21年(2009年)からは第3土曜の夜に開催されるようになりました。
門灯籠は神社の入口に立てる門型の構造物です。
構造的には、腕木門(うできもん)や冠木門(かぶきもん)の屋根の下の部分に灯籠を設けたり提灯を下げるもので、扉はありません。
灯籠の障子に絵や文字を描き、中に灯りを点けるものを門灯籠、12個の提灯を下げるものを十二燈提灯と呼んでいます。
北信地方の大きな神社では見かけますが、全国的には珍しいもののようです。
仮設のものはお祭りに組み立てられるだけなので、常設の鳥居と違って一般の人の目に触れる機会が少なく、労力と費用がかかる割に存在感が希薄です。
それだけに、当事者にとっては一層思い入れの深いものになっていたかもしれません。
うでぎもん【腕木門】:
2本の本柱を立て冠木(かぶき)を差し、腕木および出桁(だしげた)で屋根を支えた門。木戸門。
かぶきもん【冠木門】:
冠木を2柱の上方に渡した屋根のない門。衡門(こうもん)。 広辞苑
腕木門(うでぎもん):
親柱から腕木を出して桁を乗せ、冠木から垂木をかけて屋根をつけて板戸か格子戸を設けた門。
冠木門(かぶきもん):
左右の親柱の上部に冠木と呼ぶ貫を通し、内開きの扉をつけた門の事。
建築情報.net
須坂市下八丁・高井八森神社の門灯籠のほか、
中野市・片塩諏訪社、
山ノ内町・佐野神社、
山ノ内町・不盡野神社、
上水内郡飯綱町・芋川神社、
飯山市・信国豊濃神社、
小布施町・六斎市などでも立てられています。
村内では高杜神社の十二燈提灯(水中区)、山田神社などで常設されています。
木造と鉄骨構造とがあり、木造の場合は仮設と常設の両方ありますが、鉄骨は常設です。
高山村牧の子安神社は既存の木製の十二燈提灯を常設化したもので、長野市の賀茂神社は軽量鉄骨の常設です。
最終更新日 2015年10月27日
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