「おらちの”おごっそ”食べとくんなして」:”我が家のご馳走をどうぞお召し上がり下さい”【北信州の方言】
北信州高山村では、小麦粉を準主食として食べていました。
小麦粉を練った皮で味を付けた野菜や小豆餡などを包んで加熱した、信州の粉食文化の代表料理です。
○具や皮に加える材料、作り方は、家によっていろいろな秘伝があります。
◎我が家の秘伝:小麦粉にベーキングパウダー、砂糖、卵、日本酒を加え、水を加えて練った後、濡れ布巾で覆って15分くらい寝かせる。
◎とっておきの具:丸ナス、ニラ、ノビル、大根、長ネギ、タマネギ、キャベツ、カボチャ、千切り大根(切り干し大根を使う方法もある)
野沢菜漬け、 こしあん、粒あん、ウィンナソーセージ(お子さま向け)など
☆加熱方法は、蒸籠(せいろ)で蒸(ふ)かす、焙烙(ほうろく)で焼く、囲炉裏の灰の中で蒸す、フライパンに油をひいて両面を焼く、などがあります。
○皮に包むことを「おやきをまるめる」といい、蒸かしても「焼く」といいます。
◎お祭りや冠婚葬祭などの行事の際、お客様をもてなすご馳走として山のように作ります。
○「おやき」という名前は、最近になって少しは知られるようになりましたが、「おやき」を「おまんじゅう」といわれると、北信州人はちょっと違和感を感じます。
「おやきもち」といっていたものが「おやき」と呼ぶ地域と「やきもち」と呼ぶ地域に分離したらしい。
●初めて「おやき」に出会った上州のお客様が、ふっくら蒸かし上がった「おやき」を、甘いあんこの饅頭だと思ってかぶりついたところ、中身が野菜だったので吐き出されたこともありました。
小麦粉を水で溶き、刻んだニラと調味料を入れて焼き上げたもので、いわば”和風ピザ”です。
☆フライパンに油をひいて、1〜2センチの厚さで焼くのが一般的です。
ふくらし粉や重曹を入れて、ふっくら焼き上げる調理法もあります。
○そのまま、あるいは味噌ダレや蜂蜜などをかけて食べます。
◎我が家では、味噌と砂糖、出汁を入れて薄く焼き、何も付けずに食べます。
◎農繁期には、厚さが2〜3センチもあるせんべを焼いて田や畑に持って行き、休憩時の「こびれ」に食べました。
練った小麦粉をちぎって味噌や醤油仕立ての汁に入れて煮たもので、いわゆる”すいとん”です。
練った小麦粉を”取っては投げ入れる”ことから「とっちゃなげ」とも呼びます。
◎農作業の忙しい時に、短時間にできる夕食として作りました。
☆野菜のほかに豚肉や鶏肉、油揚げなどを入れて味を調えます。
●毎年、夏に行われる「信州高山まつり」では、大釜で煮た”ひんのべ”が、祭りの参加者にふるまわれます。
参加者は”ひんのべ”を食べた後、”ひんのべ音頭”に合わせて”ひんのべ踊り”を踊って、真夏の一夜をすごします。
小麦粉を練ったものを細長く切って茹で揚げ、刻みネギやだいこんおろしを薬味に入れたつゆに浸して食べる、”釜揚げうどん”です。
○製麺機で伸ばして切ったものを、茹でずにそのまま味噌仕立ての汁に入れて煮たものは「ぶちこみ」あるいは「ぶちこみうどん」と呼びます。
◎どちらも「ひんのべ」と並ぶ粉食文化の代表です。
☆季節の野菜や山菜を天ぷらにして添えると、田舎のご馳走になります。
●冬が寒い北信州では、醤油仕立ての汁で煮込み、しっかり中まで味の浸みたうどんが好まれており、冷たい”ざるうどん”は育たなかったようです。
漬物は信州の名産の一つです。
北信州では野沢菜を「お菜」と呼び、野沢菜の塩漬けを「お葉漬け」といいます。
○塩以外に加える材料や漬け方は、家によっていろいろな秘伝があります。
我が家では、りんごや焼酎を隠し味で入れることがあります。
◎長い冬を越すための貴重な保存食で、信州の生活には欠かせない一品です。
○漬物桶から1株(大きな株は4分の1位に分割する)を取り出し、大皿へ山盛りにして食卓に出します。
●年寄りは醤油や”味の素”をかけて食べたがります。
○春になって味が変わると、煮たり、油で炒めて食べたり、「おやき」の具にします。
だいこんを塩などで漬けた”たくあん”を「おここ」と呼びます。
○塩以外にたくあんの素、米糠、干したナスの葉や柿の皮なども入れます。
◎長い冬を越すための貴重な保存食で、信州の生活には欠かせない一品です。
●春になって味が変わったら、薄切りにして塩抜きします。
ゴマ油で炒め、砂糖、出汁、醤油で味付けし、少し焦げ目をつけてから唐辛子を加えて味を調えます。
米は貴重品で、おごっそ(ご馳走)の材料でした。
小正月で農作物の豊作を祈願する「繭玉作り(団子作り)」の行事に飾ります。
養蚕が盛んな時代は繭玉が主でしたが、養蚕をしなくなってからは丸い団子のほかにりんごや茄子、大根などの野菜も作っています。
○米粉に熱湯を加えて捏ね、蒸し器で蒸します。
蒸し上がったら着色料を混ぜて捏ね、丸い団子や繭玉、野菜、果物、巾着などの形にして欅の枝にさして飾ります。
◎どんどん焼きで炙って食べると風邪をひかないといわれています。
◎月遅れのお釈迦様の涅槃会に供える、蒸した米粉で作った”金太郎飴状”の料理です。
○米粉に塩少々、砂糖、日本酒と熱湯を加えて捏ね、適当な大きさに分けます。
蒸し器で蒸してから取り出し、水の入ったボールに浸けて冷まします。
ボールから取り出して水気を切り、着色料を混ぜて捏ねます。
金太郎飴のように模様の素材を作って組み合わせ、力を入れて細長く延ばします。
冷めてから適当な厚さに切ってできあがりです。
○やしょうまの模様や材料、形は家によって秘伝があります。
コーヒー(茶色)、よもぎ(緑色)、ピート(赤)、かぼちゃ(黄色)などで着色します。
切り口が鼻の形にしたものが「はなだんご」です。
仏壇からさげ、少し焦げ目がつくくらいに火であぶり、砂糖醤油をつけて食べます。
●お釈迦様がお亡くなりになる前に、弟子のヤショが作って差し上げたところ、お釈迦様が「ヤショうまいぞよ」とおっしゃったのが「やしょうま」の語源だと教えられました。
梵語(サンスクリット語)にも「ヤショウマ」があるんですかね?
やしょうま:【痩馬】2月15日の涅槃会(ねはんえ)の供物。 米の粉または小麦粉でだんごを製するが、手で握った形が馬に似るところからいう。やせうま。 広辞苑
「やしよ馬引て小僧も寝釈迦哉」一茶
※ご近所の勝山まさ枝さんは高山村の「やしょうま名人」で、高山村の教育委員会が紹介する「高山村のすごい人」に紹介されています。
お嫁さんを迎えてから初めてのお節句を「初節句」と呼び、親戚に「柏餅」を配ります。その後、初めての男の子が産まれると、親元や仲人、親戚から鯉幟や武者人形などがお祝いに贈られ、お返しに「柏餅」を配るため、お節句に欠かせないご馳走です。
○米の粉を蒸して搗きます。
一握りちぎって丸く平らに延ばし、その上に餡を乗せて二つ折りに包みます。
カシワの葉で包んで蒸し上げます。
○月遅れのお節句なので新しいカシワの葉を使えますが、新暦のお節句に柏餅を作るためには、前の年に採って塩漬けしておいた葉や、乾燥して保存しておいた葉を戻して使います。
餅つきの時、「お飾り」と「切り餅」のほかに作った保存食です。
「あらね」は、のし餅を”賽の目”やちょっと大きめに切って作る”霰餅(あられもち)”のことです。
「かき餅」は、搗いた餅をかまぼこのように形を整え、薄く切ります。
中にゴマや大豆を入れた「かき餅」もあります。
糯米(もちごめ)で作るお祭りのご馳走です。
☆竃(かまど)にお釜をかけてお湯を沸かし、蒸籠(せいろ)をのせて蒸かします。
糯米は洗って潤(ほと)ばしておき、蒸籠で蒸かします。
ボールにあけ、あらかじめ用意しておいた五目の具をよく混ぜ、もう一度蒸かします。
○具の材料は、家や季節によっていろいろなものがあります。
切り昆布、こんにゃく、にんじん、干し椎茸、ちくわなど。
秋のお祭りには、爺ちゃんが採ってきた松茸やしめじを加えて茸飯を作りました。
◎おやきと並ぶお祭りの2大ご馳走のひとつです。
お客様の昼食用のほかに、重箱に詰めてお客様のお土産にしたり、来られなかった親戚に配ります。
あまったご飯をおいしく食べる知恵です。
☆ご飯に牛乳と小麦粉を少し加えて半殺しにし、小判形にします。
油を引いたフライパンで両面をこんがり焼きます。
”味噌だれ”や”ごまだれ”を付けて食べます。
飯やきもちの内と外の入れ替わりです。
☆ご飯に牛乳と小麦粉を少し加えてよく捏ね、卵くらいの大きさにして中に甘味噌を入れます。
油を引いたフライパンでゆっくりと焼いてできあがり。
味噌にシソの実などを混ぜてもいい。
漬物と並ぶ信州のもう一つの特産です。
あらかじめ米で糀(こうじ)を作っておきます。
大豆を洗い、水に漬けて一晩ほとばしておきます。
水を含んでふくらんだ豆を、大釜で煮ます。
指でつぶれる位に柔らかく煮えたら、豆を取り出し、つぶし機で一気につぶします。
つぶれた豆を”半切(大きな浅い桶)”に受け、冷めないうちに円柱状の味噌玉を作ります。
(味噌玉の直径と高さは20センチ位)
ござの上に味噌玉を並べ、乾かないように覆をしておきます。
2〜3日たつと味噌玉の表面にカビが出てくるので、半切の中で味噌玉を壊し、塩と米糀を加えてかき混ぜ、味噌樽に詰めます。
2年寝かせて熟成した味噌を2年味噌、3年寝かせたものを3年味噌と呼びます。
◎つぶす前の豆を藁に包み、こたつで加温しておくと自家製納豆ができます。
●豆を煮ている最中に、病院から「男の子が生まれた!」と電話があったが、手が離せないので「味噌玉を作ってから見に行く」といって作業を続けました。
味噌煮のときは、出産にも立ち会えません。
味噌をまわりにまぶしただけのおにぎりで、中には何も入っていません。冷や飯を使って短時間にできる「おこびれ」です。
時間があるときは、網の上に載せて焼き、少し焦げ目をつけます。