高井野の地理高井野の街道

半年だけの国道〜山田峠

山田峠
 ↑山田峠全景
 国道292号・志賀草津道路沿いの草津白根山と横手山の中間に位置する山田峠(2,048m)は、明治時代まで北信州と上州草津温泉との交易道として利用された山田道(山田側では草津道と呼んでいた)の要衝でした。
 近年、自動車道の開通で山田道が利用されなくなると峠としての機能は薄れ、名前だけが残されました。
 高速道路や新幹線はもちろん鉄道も通っていない高山村において、山田峠附近は唯一国道が通過している希有な場所ですが、このことはごくわずかの村民に知られているだけです。
 また国道の峠の標高では第3位(あまり認知されていませんが)である等、山田峠周辺には見所がいくつもあり、知る人ぞ知る名所です。

山田峠周辺
↑山田峠周辺(カシミール3Dの地図)


国道通過箇所

Googleマップでは山田峠附近で長野と群馬の県境を示す破線が途切れています。

牧区有地「奥日影2974-39」

山田峠の標柱  国道292号を挟んで山田峠の標柱の反対側の小高い場所に木製の標柱が立っています。

←山田峠の標柱

牧区の標柱  標柱の一面に地籍が表示されています。
 「地籍 高山村大字牧字奥日影二九七四ノ三九」

牧区の標柱  他の一面にこの地籍の所有者が牧区であると表示されています。
 「所有者 長野県上高井郡高山村大字牧区」

奥日影山

牧村の絵図
↑牧村の絵図(『信州高山村誌』)

明治20年(1887年)6月作成の牧村絵図は、東は上州、北は松川を境に奥山田村、西は高井村、南西は園里村と接しています。
 この中で大唐沢から上州境までが奥日陰山となっており、地籍は奥日影になります。

県境の変遷

牧村絵図によると牧村と上州との境は、池ノ塔山・乳山・白根山・満山・黒湯山・御飯岳・破風岳を結ぶ稜線になっています。
 『長野縣町村誌』の「牧村」には「白根山頂上にて三分し、西北は本村に属し、南は上野國吾妻郡干俣村に属し、東は同國同郡入山の内、草津温泉に属す。」と記されており、白根山が県境となっています。
 従って、山田峠一帯は牧村の所有地で、長野県に属していたことになります。

↑山田峠(国土地理院地図)

現在、草津白根山はすべて群馬県内にあり、山田峠附近における長野と群馬の県境は国道292号の高山村側に描かれています。

高山村内を通過する国道

山田峠付近の地図  牧区有地の「奥日影2974-39」が国道292号の群馬県側に位置していることから、長野・群馬県境は「奥日影2974-39」の箇所(地図の矢印で示した三角形部分)が国道292号を跨いでおり、高山村内を国道が通過していることが分かります。
 ただし志賀草津道路は11月中旬から翌年4月末までの冬期間は閉鎖されるため、半年だけ通行できる国道です。

山田峠付近の地図(『信州高山村誌』)

Googleマップはこのことを考慮して県境を途切らせているのかもしれません。


山田峠の千手観音

上高井地方交通網
↑山田道 江戸時代の上高井地方交通網図(『長野県上高井誌』)

明治時代まで山田道を経由して白根山の硫黄や奥山で焼いた炭などが山田側に運び下ろされ、山田側からは鉱山用の物資や草津温泉の食料・塩などが運び上げられました。

山田峠の千手観音  明治時代後期、山田道の往来の安全を守護する百体観音が安置されました。

←山田峠の百番観音【千手観音】

山田峠の千手観音  今も志賀草津道路を往来する観光客やツアースキーヤーを静かに見守っています。

←志賀高原のシンボル笠岳(左)と横手山(右)


山田峠の避難小屋と鐘

避難小屋の必要性

かつて山田峠を通過するスキーツアーが盛んな時期がありました。
 ・横手山−渋峠−山田峠−芳ヶ平−草津温泉
 ・横手山−渋峠−山田峠−白根山−万座温泉
 ・山田温泉−七味温泉−山田峠−万座温泉・草津温泉

しかし冬季の山田峠を中心とする一帯の気象条件は厳しく、強風と吹雪、あるいは濃霧発生などによる遭難事故がしばしば発生し、避難小屋設置の極めて強い要望がありました。

避難小屋建設

山田峠の避難小屋 ←山田峠の避難小屋

昭和30年(1955年)に大一建設が請け負って避難小屋を建設しました。
 まだ山田峠に自動車道は開通しておらず、セメントやブロック等の建設資材や諸材料を山田側から索道で横手鉱山まで上げ、終点から山田峠までは馬の背で運びました。
 当時、横手鉱山は閉鎖されていましたが、鉱山の管理人に索道の修理をして建設資材を運ぶことの了解を取り付け、村内に住む索道関係技術者によって索道を修理したそうです。

ツアーコースの拠点

山田峠の避難小屋の鐘 ←避難小屋の鐘

冬期間、志賀草津道路が閉鎖されると避難小屋が開放されます。
 近年、志賀高原から万座温泉や草津温泉に向かうバックカントリーツアーが人気で、避難小屋がコースの通過点や休憩所に利用されています。
 ただし春から秋にかけて志賀草津道路が開通している間は施錠され、中には入れません。

1987年(昭和62年)に公開された映画『私をスキーに連れてって』で夜間に志賀高原スキー場から万座温泉スキー場に向かう場面がありますが、ここは通過しなかったようです。


中央分水界

高山村と群馬県の境は北の渋峠(2,152m)から山田峠を経て南の破風岳(1,999m)まで分水界となっており、高山側に降った雨は千曲川水系から日本海に流れ込み、群馬側に降った雨は利根川水系から太平洋に注ぎます。

中之条町の標柱
 群馬県中之条町が乳山の裾の国道292号脇に『中央分水嶺』の標柱を建立しています。


地殻変動観測点

地殻変動観測点
 山田峠の標高2,052.8m地点に国土地理院の「地殻変動観測点」が埋設されています。

地殻変動観測点
 草津白根山における火山性地殻変動の検出に利用されています。

地殻変動観測点
GPS
1002
建設省国土地理院
地殻変動観測点の概要
基準点コード MPB5438748201
等級種別 地殻変動観測点(MPB)
基準点名 山田峠
所在地 群馬県吾妻郡中之条町大字入山字入山甲の1
北緯 36°39′06″.2814
東経 138°31′35″.0232
標高 2052.77
平面直角座標系(番号) 9
平面直角座標(X)(m) 73109.318
平面直角座標(Y)(m) -116852.384

境界未定地域

中之条町

中之条町の標識
 白根山から渋峠に向かう国道292号の左側に「中之条町」と書かれた案内標識が立っており、ここから群馬県吾妻郡中之条町に入ることを示しています。

通常なら、反対車線の左側には中之条町に隣接する市町村名が示されている逆向きの案内標識があるはずですが、山田峠周辺には見当たりません。

境界未定地域

↑長野・群馬県境と中之条町・草津町・嬬恋村境(国土地理院地図)

国土地理院の地図には中之条町と草津町の境界が二点鎖線で県境の山田峠まで描かれています。
 しかし草津町と嬬恋村の境界線は本白根山の三角点附近で途切れており、ここから県境まで境界未定地域になっています。

ちなみに万座温泉の所在地は群馬県吾妻郡嬬恋村干俣、国道292号から万座温泉に分岐する三叉路も嬬恋村で、白根山は草津町に含まれています。


山田峠からの絶景

志賀草津道路は『日本百名道』に選定された日本有数の山岳スカイラインで、山田峠から絶景を望むことができます。

山田峠から望む横手山、乳山(東)、池の塔山  山田峠の標柱と横手山、乳山(東)、池の塔山

芳ヶ平湿原と榛名山  榛名山、浅間隠山、白根山
 草津町、芳ヶ平湿原
 (晴れていれば榛名山の右側あたりに東京スカイツリーが見えるはず)
(写真をクリックすると別画面で大きな写真になる)

富士山遠望  白根山、本白根山
 遠くに富士山の頂が見えている
(写真をクリックすると別画面で大きな写真になる)


「国道の標高三大峠」

国土交通省によると日本で標高の高い国道は、1位が292号線志賀草津道路で最高地点は渋峠(群馬県中之条町・長野県山ノ内町、高山村)2,172m、2位が299号線で最高地点は麦草峠(長野県佐久穂町・茅野市)2,127m、3位が120号線で最高地点は金精峠(群馬県片品村・栃木県日光市)1,843mとなっています。
 数字だけ見れば山田峠は金精峠より200mも標高が高く、堂々、国道の標高3位に位置しています。
 しかし厳密に国道が長野・群馬県境の稜線を越えているかというと微妙で、それにもともとが北信州と上州草津温泉を結ぶ『草津道(山田道)』の峠であったことを勘案すると、「国道の峠」というよりも「通過地点名」という方が妥当かもしれません。
 このため「国道の標高三大峠」に含まれると強調はせず、密かに「山田峠は国道の峠の標高では第3位」としておきます。


参考にさせていただいた資料

最終更新 2019年 2月 5日

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